世界は鉄を「国ぐるみ」で足している
最近、なんとなく疲れやすい。
爪が薄くて、よく割れる。
氷をガリガリ噛みたくなる。
こんな感じ、ありませんか?
僕の講座にも、こういうお悩みを持つ方が多くいらっしゃいます。
血液検査では「異常なし」。
でも、なんだか本調子じゃない…
もちろん、他の原因のこともあります。
でも、これ、鉄不足のサインであることも、実はとても多いんです。
今日は、鉄についてお話ししたいと思います。
それも、「日本人女性の鉄不足」を、世界の視点から見てみようと思います。
実は、世界の多くの国が「鉄」を国ぐるみで足している
「え、そんなことしているの?」と驚くかもしれません。
世界では、主食に鉄を混ぜることを、法律で義務づけている国がたくさんあります。
小麦粉だけを見ても、90カ国以上が義務化しています(Food Fortification Initiative・2023年のデータ)。
2002年には38カ国だったので、20年ほどで倍以上に増えたことになります。
鉄を強化している食品は、国によっていろいろです(義務化の範囲や実施方法は国によって差があります)。
- 小麦粉…アメリカ、イギリス、カナダなど多数
- とうもろこし粉…メキシコ、ベネズエラ
- お米…フィリピン、アメリカ
- 醤油…中国
- 魚醤(ナンプラー)…ベトナム
つまり、その国で毎日食べる「いつもの主食」に、あらかじめ鉄が足されているんです。
特別に意識しなくても、生活しているだけで鉄が入ってくる仕組みです。

なぜ、そこまでして足しているのか
ここまでする理由は、シンプルです。
鉄不足は、それだけ世界共通の、根深い課題だからです。
鉄は、酸素を全身に運ぶ役割を持つミネラルです。
赤血球の中のヘモグロビンにくっついて、酸素を体のすみずみまで届けています。
それだけでなく、コラーゲンをつくったり、免疫や解毒に関わったり、やる気や気分の安定に関わる神経伝達物質をつくったりと、全身で働いています。

鉄が足りなくなると、体は生命維持に直結する酸素運搬を、まず優先的に守ろうとします。
その分、肌や気分といった部分は、後回しにされやすい、というイメージです。
だから、血液検査で「貧血」と言われるほどではなくても、肌や気分の不調として先に出てくる人が、実はとても多いんです。
これだけ生活に関わるミネラルだからこそ、多くの国が「個人の努力任せ」にせず、制度としてカバーしているんですね。
では、日本は?
日本には、主食に鉄を足す義務化の制度がありません。
つまり日本人は、鉄を「自分で意識して足す」しかない、ということになります。
実際のデータを見てみましょう。
まず、実際に摂れている量です。
厚生労働省「国民健康・栄養調査」(令和5年ほか)によると、月経のある女性が摂れている鉄の量は、1日およそ7.2mg前後です。
これに対して、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」で示されている月経のある女性の推奨量は10.5mg。
日々3mgほど足りていない計算になります。
(これは平均値どうしの比較なので、個人差があることは前提として見てください。)
20代女性にしぼるとさらに少なく、摂れている量は6.2mgほど。
推奨量との差は、4mg近くにまで広がります。
一方、男性は推奨量7.5mgに対して摂れている量が8.0mgと、足りている状態です。
鉄の摂取量と推奨量の比較
もう一つ、フェリチン(体に貯めてある鉄の量を示す数値)の調査データも紹介します。
厚生労働省「平成21年 国民健康・栄養調査」(女性N=2488)では、20〜40代(月経のある年代)の女性の約70%で、血清フェリチンが30ng/mL以下でした。
血液検査でふつう見る「ヘモグロビン(今、血液の中で働いている鉄)」は、まだ基準内の人が多いです。
でも、「フェリチン(貯めてある鉄)」だけが、先に減っている。
そういう人が、それだけ多いということです。
同調査では、50代以降、閉経を迎えて生理がなくなっても油断はできない、というデータも出ています。
4〜5人に1人は、まだ鉄不足が続いているんです。
「貧血と言われたことがない」は、「鉄が足りている」とはイコールではないんですね。
ただし、「一律」にも弱点がある
ここで一つ、大事な視点を付け加えておきます。
主食に鉄を足す方法は、鉄が足りない人には助けになります。
でも、もともと鉄が十分な人や、鉄が多くなりがちな人には、必ずしも良いことばかりではありません。
鉄は、多すぎても体の負担になるミネラルだからです。
特に男性や閉経後の方は、鉄が過剰になりやすい傾向があります。
実際、スウェーデンは1995年に、デンマークは1987年に、小麦粉への鉄の義務的な強化をやめています。
理由の一つは、遺伝的に鉄を溜め込みやすい体質(ヘモクロマトーシス)の人にとって、一律の鉄添加がかえって負担になりかねない、という懸念があったからです。
ただ、やめた後の影響を見ると、話はそう単純でもありません。
スウェーデンでは月経のある女性で、デンマークでは思春期の女子で、それぞれ鉄不足が増えたという報告があります。
つまり、一律に足しても、一律にやめても、鉄が足りない人には、そのしわ寄せが行ってしまうということです。
「みんな一律に」ではなく、「必要な人が、必要な分だけ」というのが、本来は理想の形なんですね。
だからこそ僕は、鉄は制度に頼るというより、自分の状態を知って、自分の分を意識して満たすのがいちばんだと思っています。
鉄を、無理なく満たすには
最後に、日々の生活でできることをお伝えします。
まず土台として、ごはん(お米)とタンパク質をしっかり食べること。
鉄はタンパク質にくっついて全身を運ばれるので、タンパク質が足りていないと、せっかくの鉄を活かしにくくなります。
そのうえで、鉄を含む食材を意識します。
鉄には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があり、吸収率が違います。
- ヘム鉄(吸収率15〜35%と高め)…赤身の肉、青魚・赤身魚、貝類など
- 非ヘム鉄(吸収率2〜20%とやや低め)…大豆製品(納豆・豆腐など)、ごま、緑の濃い葉物、青のり、卵など

非ヘム鉄は、ビタミンCや酸(レモン・お酢・梅干しなど)と一緒に摂ると、吸収が上がります。
逆に、お茶やコーヒーに含まれるタンニンなど、吸収を下げるものもあります。
ただ、そこまで気にしなくて大丈夫です。
「下げるものを避ける」よりも、「食べる」「上げる工夫をする」ことのほうが、ずっと大事です。
鉄の調理器具(鉄フライパンや鉄瓶など)も、使えば多少はプラスになりますが、量としてはあくまで「おまけ」程度。
主役はやっぱり、日々の食事です。
それでも食事だけで満たすのが難しいと感じたら、サプリメントで補うという方法もあります。
鉄の多い食材を、毎日頑張って狙って食べなくても大丈夫。足りない分は、サプリにまかせてしまってOKです。
鉄を満たすと、心とからだが安定しやすくなる
世界の多くの国が、制度として鉄を国民に届けているのに、日本ではその仕組みがありません。
だからこそ、鉄については、自分で意識して満たしていく必要があります。
鉄は、酸素を運ぶだけのミネラルではありません。
肌や髪、免疫、そして気分の安定にも深く関わっています。
なんとなく疲れやすい、気持ちが落ち着かない。
そんな時は、鉄が足りていないサインかもしれません。
まずは、自分の鉄の状態を知ることから、始めてみませんか。