前編では、「かくれ甲状腺機能低下」がなぜ見過ごされやすいか、というお話をしました。

今日は、その原因と、整えるための土台についてお話しします。

甲状腺の不調は、実は「結果」

まず大事な前提から。

もちろん、甲状腺そのものの病気(橋本病など)が隠れているケースもあります。
気になる症状が続くときは、まず検査を受けることが大切です。

そのうえで、今日お話ししたいのは「かくれ甲状腺機能低下」について。
これは、甲状腺そのものが原因というより…
体の他の場所の乱れが積み重なった「結果」であることが多いんです。

だから、甲状腺そのものにばかりアプローチしても、根本的な改善にはつながりにくい。

原因になりやすいのは、主にこの4つです。

  1. 低栄養
  2. ストレス
  3. 肝臓

順番に見ていきましょう。

① 低栄養…体が「省エネモード」に入る

糖質制限やカロリー制限を頑張りすぎると…
体は「エネルギーが足りない」と判断して、省エネモードに入ろうとします。

その省エネモードのスイッチの一つが、甲状腺機能を落とすこと。
体を守るための、いわば防衛反応なんです。

痩せたくて頑張っているのに、逆に代謝が落ちてしまう…
これ、心当たりのある人、多いんじゃないでしょうか。

実は、ここがいちばん伝えたいポイントです。

「健康のために」「美容のために」と、少食を心がけている人、とても多いですよね。
食べる量を減らせば、体も心も軽くなる。
そんなイメージ、ありませんか。

でも、日本人はもともと、痩せ気味の人が多い国です。
そこにさらに「少食」を重ねてしまうと、体は慢性的なエネルギー不足に陥ります。

そうなると体は、さっきお話しした「省エネモード」に入り、甲状腺の働きにブレーキをかけてしまう。

健康のため、美容のためにやっていたことが、実は体をだるくさせる原因になっていた…
そんな、逆効果のパターンが、意外と多いんです。

寒がり、便秘、だるさ。
「体質だから」「歳のせいだから」と思っていたその不調、実は少食による甲状腺機能低下のサインかもしれません。

真面目に食事量を減らしてがんばっているのに、なんだか元気が出ない。
そんな人、思っている以上に多いんですよ。

② ストレス…指令の経路が乱れる

ストレスが続くと、体は「非常事態だ」と判断して、コルチゾール(抗ストレスホルモン)をたくさん出そうとします。

このコルチゾールも、甲状腺への指令(TSH)も、実は体の同じ「司令塔」から出ています。
場所でいうと、脳の中の視床下部と脳下垂体という部分です。

一つの司令塔が、コルチゾールの指令とTSHの指令、両方を担当している。
そんなイメージです。

だから、ストレスが続いてこの司令塔が疲れてしまうと…
コルチゾールだけでなく、TSHの指令もうまく出せなくなることがあるんです。

前編で少し触れた「僕のTSHが低めだった」という話も、これが背景にあったのかもしれません。
甲状腺そのものが弱っていた、というより…
脳からの指令(TSH)そのものが、ストレスで弱まっていた。
そういう可能性を考えています。

しかも、同じ出来事でも「ストレスに感じるかどうか」は、人によって違います。
だからこそ、出来事そのものよりも、休み方や受け止め方のクセが、じわじわと体調に響いてくるんです。

③ 腸…自己免疫のスイッチにも

腸は、消化・吸収をする場所というだけではありません。
実は、体の免疫細胞の大部分が集まっている、免疫の司令塔でもあります。

腸の壁は、本来「必要な栄養だけを通す」フィルターのような役割をしています。
ところが、腸内環境が乱れると、このフィルターの目が粗くなってしまうことがあります。
これを「リーキーガット(腸もれ)」と呼びます。

フィルターが粗くなると、本来なら通さないはずの未消化の食べ物のかけらや、腸内細菌の成分が、血液の中に漏れ出してしまいます。

すると、免疫システムが「異物が入ってきた」と反応して、攻撃態勢に入ります。
このとき、まれに、免疫が自分の体の組織を、間違って攻撃してしまうことがあります。
これが「自己免疫」です。
橋本病のような自己免疫性の甲状腺の病気にも、この仕組みが関わっていると考えられています。

腸内環境が乱れる理由は、人によってさまざまですが、代表的なものはこちらです。

  • 加工食品や添加物の多い食事
  • 食物繊維の不足
  • 糖質や甘いものの摂りすぎ
  • 抗生物質の使用
  • 慢性的なストレス(②でお話しした内容も、実は腸に響いてきます)

こういったことが積み重なると、腸内細菌のバランスが崩れたり、腸の壁が荒れたりしていきます。

腸の炎症は、腸だけにとどまりません。
全身に飛び火していく性質があります。

まだ研究が進んでいる途中のテーマではありますが、腸の状態が免疫の調整にとても重要な役割を担っている、というのは間違いありません。
甲状腺を含め、体全体の免疫バランスを考えるうえで、腸はやっぱり外せない場所なんです。

④ 肝臓…ホルモンを”使える形”に変える場所

甲状腺から出るホルモンには、FT4とFT3という2種類があります。
実は、体にとって働きやすい(活性型の)ホルモンは、FT3の方。

このFT4をFT3に変換する仕事の大部分を担っているのが、肝臓です(腎臓も一部担っています)。

だから、肝臓が疲れていると、この変換がうまくいかなくなります。

甘いものが好きで脂肪肝気味だったり、お酒を飲みすぎていたりすると…
肝臓のこの働きが落ちてしまうことも。

まとめると

ストレスが強い、朝ごはんを食べない、外食が多い、甘いものが好き……
こういう生活が重なると、じわじわと甲状腺機能を落としてしまうんです。

では、どう整えていく?

先にお伝えしておきたいことがあります。

「この栄養素さえ摂れば治る」という特効薬は、残念ながらありません。

甲状腺の不調は、生活全般の乱れが積み重なった「結果」でした。
だから、整えるときも、生活全般を見直していくことが必要になります。

とはいえ、あれもこれもと欲張らなくて大丈夫。
順番があります。

いちばんの土台は、なんといっても食事。
「食べるべきものを、しっかり食べる」。
これがすべての出発点です。

そのうえで、運動、睡眠、ストレスとのつき合い方を、少しずつ整えていく。

食事を軸に、生活全般が整ってくると…
省エネモードのスイッチが切れて、腸と肝臓が元気を取り戻します。
その結果として、甲状腺もゆっくり動き出す。

甲状腺を直接どうにかしようとするのではなく、土台から整えて、体が自然と立ち直っていくのを助ける。
そんなイメージです。

では、具体的に見ていきましょう。

食べるべきものを、しっかり食べる

まずは、こちらの栄養を意識してみてください。

  • タンパク質…甲状腺ホルモンそのものの材料になります
    → 肉、魚、卵、大豆製品(豆腐・納豆)など
  • …甲状腺ホルモンを作る酵素の、補酵素として働きます
    → レバー、赤身の肉、かつお、あさり、卵など
  • 亜鉛…TSH(指令ホルモン)の分泌や、甲状腺ホルモンの合成・調節に関わります
    → 牡蠣が断トツ。赤身の肉、レバー、卵など
  • セレン…FT4をFT3に変換する働きを助けます
    → かつお、まぐろ、いわし、卵など
  • 食物繊維…野菜や果物をよく食べる人は、甲状腺機能の異常が少ない、というデータもあります
    → 野菜、果物、きのこ、豆類など
  • ヨウ素…甲状腺ホルモンの材料になる栄養素です。わかめや海苔などの海藻は、マグネシウムや水溶性の食物繊維も摂れるので、積極的に食べてほしい食材。ただし昆布だけは別で、ヨウ素の量が他の海藻とは桁違いに多いんです。昆布だしや昆布の佃煮を毎日たっぷり…という食べ方だけは気をつけてください。

量も、しっかり…特に朝ごはん

「食べるべきもの」を選んでも、そもそもの量が足りていなければ、体は省エネモードから抜け出せません。
中身だけでなく、しっかりエネルギーを入れることも大事です。

特に朝ごはんは、一日の代謝のスイッチを入れる意味でも欠かせません。
少食が習慣になっている人は、まず朝、しっかり食べるところから始めてみてください。

運動・睡眠・ストレスコントロールも

この3つも、食事と同じくらい大事な土台です。
ただ、まず何から手をつけるかというと…食事から。
食事が整うと、他の土台も動かしやすくなるからです。

順番を意識しながら、少しずつ整えていきたいところです。

運動は、散歩程度の軽いものでじゅうぶん。
無理に追い込む必要はありません。

睡眠は、まず足りているかどうかを見直してみてください。

ストレスとのつき合い方は、②でお話ししたとおり。
出来事そのものより、受け止め方や休み方のクセが、じわじわ効いてきます。

焦らず、じっくりと

甲状腺は、ゆっくり整っていくもの。
今日から変えても、すぐに数値が変わるわけではありません。

焦らず、じっくり、土台から整えていく。
それが、いちばんの近道だと思います。

まずは、前編でお話しした血液検査で、自分の数値を知ることから。
そして、今日お話しした4つの土台…低栄養・ストレス・腸・肝臓…を、少しずつ見直してみてください。

なお、強いだるさ、むくみ、体重の大きな変化、気分の落ち込みなどが続くときは、自己判断だけで済ませず、一度医療機関に相談してくださいね。